短編

□拍手
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夢オチシリーズ
Cショタセラレータ
※名前変換有り。



「んん、ぅ」

目覚まし時計を止めて伸びをした。
良い天気の朝だ。

顔を洗いにベッドから降りようとした時、眠る少年の違和感に動作を止めた。
……小さい?
まだ夢の世界にいる少年が少年であることには変わりない。
だが明らかに昨日までの一方通行より、背丈といい顔といい幼くなっていた。
10歳に少し届かないくらいに見える。

「……一方通行?」

少年は熟睡しているようだ。
呼んでも目を覚まさない。
だがこのまま学校に行くわけにもいかないので頬をつついて起こしにかかる。

「……ンゥ……?」

うっすら開かれた瞳は一方通行と同じく血を透かした赤色だ。

「誰だオマエ」

少年はこちらを軽く睨んだ。
だが自分より小さな子どもに睨まれたところで怖くはない。

「俺を浚って来た研究者か?どォするつもりだ」

疑いの言葉に私は慌てて両手を振る。

「何もしてないし浚ってないよ!」
「研究者って面にゃ見えねェが……何が目的だ?」
「何ひとつ信じられていない?!」
「さっさと答えねェと……あン?」

睨み付けながら詰め寄ろうとした少年は、卓上カレンダーを見つけたことで私から興味を移した。

「5年先じゃねェか……オイ、今の西暦答えてみろ」
「それ今年のだから××××年であってるよ」

少年は絶句した。

「私は今の一方通行と暮らしてるおなまえだよ」

ついでに自己紹介も済ませておく。
暗に自分は怪しくないですというアピールだ。
ふと時計が目に入る。家を出る時間だ。

「ごめん、まだいたいけど学校行かなくちゃ」

少年の頭を撫でながら言う。
いきなり知らない場所に来て心細いだろうが、学校に行かなければならない。
心配しながらも鞄を取り、必要なことを並べていく。

「ごはんは冷蔵庫に入ってるから。テレビでも漫画でも好きに見ていいよ。夕方には帰るね」




橙色になった陽が沈み始めた頃、部屋のドアを開けた。
急いで帰ったので少し息が上がってしまう。
奥へ進むと一方通行少年は私のベッドに横になっていた。
小さくなっても一方通行は一方通行だ。
私はくすりと笑う。
一方通行は不機嫌そうに私を睨んだ。

「ただいま」
「……遅ェ」
「これでも急いだんだよ。何事もなかった?」
「ン……」

少年の様子を確認したので夕食作りに取りかかるとする。
今日はハンバーグだ。
今の一方通行も好きだろうし、きっと気に入ってくれるだろう。
温まったフライパンに作った種を並べていく。
ジュウジュウと食欲をそそる音がする。
たちこめた肉の匂いに一方通行も寄ってきた。

「イイ匂い。ナニ作ってンだァ?」
「ハンバーグだよ」
「ハンバーグ!」

これまで仏頂面を貫いてきた一方通行が歓声を上げた。
食べ物の力がこれほどとは、と感心すると同時に子どもはハンバーグが好きだという認識を強めた。
一方通行は興味深そうにハンバーグが焼ける様子を見ている。
そろそろ焼きあがるので、出来上がった料理たちを皿に乗せていった。
食卓に着いた一方通行はキラキラと目を輝かせていた。
そこまで喜んでもらえると作って良かったと思える。

「いただきます」
「……イタダキマス」

普段言う習慣がないのだろうか。
一方通行は少し照れながら手を合わせた。
子ども用のものはなかったので、大人用のカトラリーをぎこちなく駆使している。
箸の方がよかったかもしれない。
一口大に切ったハンバーグを口に運ぶと彼は頬を緩ませた。

「うめェ」
「それはなにより。ハンバーグは久しぶり?」
「そォでもねェけど、いつも食う飯ってもォ冷えちまってるしよォ。毎日オマエの飯食えるってイイなァ」
「そう言って貰えると嬉しいな」

一方通行の素直さに少し照れてしまう。
フォークを口に当てじぃっとこちらを見ている彼は、未来の自分を羨んでいるようだった。
5年後を楽しみにしてくれるのなら、私としても嬉しい限りだ。
しかし同時にこの少年が元いた場所を思うと胸が痛んだ。

食器を片付けて居間に戻ると、一方通行はベッドに寝そべっていた。
どうしてもその場所がお気に入りらしい。
私は彼の傍に腰掛けた。

「なァ、5年後の俺とどんな関係なンだ?」
「関係?」
「一緒に住ンでンだろ?ただの友達じゃあないよなァ」
「んーと、家族に近いかなぁ」
「家族かァ」

付き合ってはねェンだ、と彼は意外そうに目を瞬かせた。
そして赤い瞳がこちらを見つめる。
私にはそれが寂しげなものに思えた。

「イイなァ。未来の俺はオマエにどォ思われてンの?」
「ええっ……あー、大事だよ。すごく。あと放っておけない」
「ふゥン」
「でも今の一方通行だけじゃないよ」

一方通行はキョトンと疑問符を浮かべる。
私より小さくなった彼を抱き寄せた。

「あなたも大事だよ。あんまり寂しそうな顔しないで」
「別に寂しくねェし」

一方通行の意地っ張りな部分が出てきたようだ。
しかしくっつけた身体を離そうとはせず、顔を私の肩に埋めていた。



PiPiPi...


鳥の囀りが聞こえる。
朝日が眩しい。

「……」

どの程度、夢だったのだろう。
夢だとしてもあの少年は過去の一方通行そのものなのではないだろうか。
そう思うとしんみりしてしまう。
夢の少年にはもう会えない、でも彼の未来の姿ならば此処にいる。
横で眠っているであろう成長した少年を見ようとすると、彼の姿はなかった。
驚いて立ち上がり、続く部屋へのドアを開ける。
一方通行は食卓でコーヒーを飲んでいた。
私より早く起きるとは、明日は雨かもしれない。



「……ァ?どォした」

安心して一方通行へと手を伸ばす。
首に巻き付いてきた腕に、彼から間抜けな声が上がった。
一方通行は戸惑いながら細腕の主の背中に手を添える。

「お……オイ?」
「……今すごくあなたのこと甘やかしたい」
「はァ?」

呆れた声を出しながらも一方通行は目を細める。
そして同居人の髪をゆっくり撫でた。
甘えてるのはどっちかわからねェな、と思いながら。



end
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